2.オールドノリタケ・アールヌーボー様式
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アールヌーボー様式のオールドノリタケの大きな特徴と魅力はその多くの製作技法にあります。
その技法は A.盛上げ B.ビーディング C.金盛り D.モールド E.エッチング F.タペストリー G.エナメル H.転写 など多岐に渡ります。 |
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A.盛上げ |
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盛上げは陶磁器の表面を立体的に盛上げて装飾する技法でイギリスのウェジウッドのジャスパーウェアに見られるような貼り付けによる盛上げや、刷毛を使った盛上げなどがあり、日本にも古来から伝わる陶磁器の表面を立体的に装飾する技法です。
オールドノリタケの場合には、ケーキに生クリームを盛り装飾する方法と同じ理屈で粘土を一陳(イッチン)と呼ばれるチューブのような道具から絞り出して盛り付ける方法が多く取り入れられました。
一陳とはこの道具を考案した久隅守景(くすみもりかげ)の別名に由来し一陳齋(いっちんさい)とも言われます。一陳は柿渋を施した繊維の強い紙または布で泥漿(でいしょう 原料の粘土を液状にしたもの)を絞り出す方法で、現在その技術は京都や金沢の友禅染の染糊に見ることが出来ます。 |
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B.ビーディング |
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ビーディングとは、和陶の世界では粒(チブ)と呼ばれる一陳による細かな粒状の盛り上げを多数一面または限られた範囲に展開盛り上げて装飾する方法で、製品の繊細さと気品を高める効果があります。
この粒による細かな盛上げは金を打つもの、色を施した泥漿を打つ方法などがあります。カップソーサー、花瓶などオールドノリタケの多くの製品に見ることが出来ます。 |
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C.金盛り |
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白色泥漿で盛り上げた生地を下地にして刷毛や筆を用いて金を装飾し、800℃の温度で焼成すると盛り上がりと周囲の金を塗った部分に金色に輝いた膜が出来上がります。オールドノリタケに使われた金彩は金の含有量が高く、重く豪華な輝きを放ちます。
金液は純金を濃塩酸と濃硝酸を3:1で混ぜた溶液で溶かし液状にしたものですが、それまで輸入に頼ってい金液の国産化はノリタケが初めて開発に成功したものです。 |
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D.モールド(石膏型による技法) |
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モールドとは生地の成型工程に於いて石膏の型の中に原料粘土を液状にした泥漿(でいしょう 原料の粘土を液状にしたもの)を流し込み、時間の経過で石膏が水分を吸収し液状の粘土が形を作る特性を利用した技法です。
泥漿を石膏型に流し込み、1時間程の時間を置くと石膏が泥漿に含まれる水分を適度に吸収し、5mmほどの厚みの乾燥する前の生地の元が出来上がります。オールドノリタケの石膏流し込みによるモールドの製品はデザインが浮き出るように盛り上がりを見せ完成されていることが特長です。 |
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また、この技法は粘土に彫刻を施したり、和陶で言う飛び鉋(とびかんな 適度に乾燥した焼成前の生地を轆轤を回転させながら細かく彫る)を施すような細かなデザインを石膏の水を吸収する特性で成すもので、現在でも大型の花瓶や置物などに生かされています。 |
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E.エッチング |
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生地の特定の部分を酸で腐蝕させ、そこに金を施す方法。生地の腐蝕した部分には艶のない金の装飾、生地に腐蝕のない部分には艶の良い金の輝きが装飾される。
オールドノリタケだけでなく現在の大倉陶園等でも『金腐らし』などとも言われ使われている技術です。
当時は現在の技術とは異なり、生地にコールタールでデザインを模った型紙を張り付けて、それをフッ化水素を用いて釉薬を溶解させる方法で型紙を剥がすと腐食していない部分は艶のある輝いた金が、釉薬の腐食した部分は艶のない重みを持った金色に装飾されます。現在のエッチングはフッ化水素には毒性があるために、この方法は用いられずサンドブラスト(細かな金属や砂を吹き付けて細かく表面の艶と輝きを消す方法)により行われています。 |
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F.タペストリー |
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一般的にタペストリーとは絵模様を織り出した綴織を言いますが、オールドノリタケで言うタペストリーとは布目を生地の表面に表す方法で、生地の表面が乾燥する前の柔らかな時点で生地に布を貼り付けてから焼成すると焼きあがった後の生地には布目が残ります。そこに、刷毛で彩色を施す方法です。
縄文土器のように、縄でデザインを残して縄を取り除き焼成するものと、布も一緒に焼成するタペストリーは全く工程の異なるものです。 |
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G.エナメル |
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オールドノリタケで言うエナメル技法はエナメルのような光沢のあるガラス状の盛り上げで、顔料により色々な色(ブルー、ピンク、茶色等)が使用されており、金盛と併用してアクセント的に使用されました。
エナメル装飾は彩色された生地に施されるだけでなく、金盛りやコバルト顔料の中にも施されワンポイントのアクセントであったりもしました。七宝焼やヨーロッパのアンティークジュエリー等にある金属と粉末のガラスを焼き付けた方法とは全く異なります。 |
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H.ハンドペイント |
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オールドノリタケのハンドペイント(手描き)の多くは上絵付と言われる装飾技法で、釉薬を施し本焼成を終えてから筆を使い描きます。
上絵付けは本焼成を終えてから釉薬の上への絵付けですので絵付けや装飾に用いた顔料が高温の焼成によって壊されることがありません。従って、和陶の世界でしばしば見られる呉須や染付のような焼き物とは異なる華やかな色彩の作品を作ることが比較的自由出来るのが特長であり利点でもあります。 |
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I.転写 |
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転写技法は同じデザインを多数生産するための技術で、絵柄を印刷したシート(転写紙)をプラモデルの絵柄を付けるシールのように素焼きの生地または完成生地に張り付け再度焼成し製品化する技法です。
明治時代には既に転写紙が輸入されていますが、ノリタケによる転写紙の製造は大正時代に始まりました。オールドノリタケの時代から使われてきた転写技術ですが、その進歩は目覚しく、現在は大部分の絵付けを施された陶磁器製品に応用されれいます。また、金などの金属も転写紙に印刷され陶磁器が製品化されています。 |
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それらの技法以外にも、オールドノリタケのデザインのモチーフ、構図が素晴らしい事、緻密で繊細な仕事による高い品格の製品である事も見逃してはなりません。 |